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by yuna-sos-0305
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第36話


「取材?」

「ああ、後輩の野上って奴の友達で出版社に勤めてる人がいるらしいんだけど、取材できる

人を捜してるみたいでさ、それで頼まれたんだ」

ス-ツを脱ぎながら、圭介はそう言って真尋を見つめた。


「でも、俺だけの一存で決められないから、少し待ってくれって言ったんだけど・・どうかな・・・?」


夫に見つめられ、 真尋は小さく笑うと言った。


「・・・私達なんかで本当にいいの・・・?」



「俺たちだからいいんだよ」



「じゃあ、取材の件はOKって事でいいんだな?」



「うん・・・・」



「後で、野上に連絡しとくよ」


そう言って 笑顔を浮かべると圭介は寝室へと足を向けた。


*********

夫が眠りについた、その横で

真尋は 先日の酒井の言葉を思い出していた。


“もう一度だけ 真尋に会いたいんだ”


酒井の答えとも思える その言葉に


真尋の胸は 静かに高鳴っていた。

***************

待ち合わせは いつもの喫茶店

先に来たのは  真尋だった。

彼が来るまでの間を お気に入りの小説を読んで過ごす。



「ごめん・・・遅れて・・・」


その声に顔を上げれば


そこには 彼の姿があった。



「ううん・・・・」

向かい側の席に座り、ゆっくりと呼吸を整えて

そっと 話し始める。

「・・・ずっと考えてた・・・真尋に別れて欲しいって言われてから
今、俺が出すべき答えはなんなんだろうって・・真尋の幸せのためにも
別れた方がいいんだって・・・でも・・なかなか勇気出なくてさ・・
連絡もできなくて・・・本当ごめんな・・・」

彼のその言葉に 無言で首を振る。
「・・・・・・正直な気持ちを言えば別れたくないけど・・でも俺が今、ここで
別れたくないって言ったところで真尋を困らせるだけだからさ・・・
だから・・・別れよう・・・」

「・・・・・・・・」

自分が望んだ結論なのに
気がつけば 涙が頬を伝っていた。

「・・・今までありがとう・・・・」

その表情も見れずに 顔を上げれば
目の前に 既に彼の姿はなかった。

とめどなく溢れる涙も そのままに
そっと 小さく その言葉を 呟いた。

「・・・ごめんなさい・・・・・・」

* ********
数日後
真尋の元を編集者である 宮瀬と女性カメラマンが訪れていた。
「何枚か、お写真撮らせていただきますけど本当いつも過ごしてる感じでいいので」

「あ・・はい・・・」

真尋に笑顔を浮かべると宮瀬は
メモを取りだし、言った。
「では、まず最初にインタビュ-の方からいきますね」
「結婚されて何年になりますか?」
「5年です」
「結婚の決め手は?」
「誠実でとても優しい人だったのでこの人ならいいかな・・と思って・・」
「結婚生活に満足してますか?」
「正直に言えば、最近は主人の仕事が忙しくてあまり一緒に過ごす時間もないので
もっとかまって欲しいです(笑)」
「今、幸せですか?」
「・・・幸せです・・・」

迷いながら、そう答えた笑顔の裏で
真尋を 言い知れぬ寂しさが 包み込んでいた・・・・。
by yuna-sos-0305 | 2005-03-24 00:02