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by yuna-sos-0305
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第18話 


酒井と食事をした次の週

真尋の元に横浜の実家で暮らしている妹・真那が尋ねてきた。

「どうしたの。真那から尋ねてくるなんて。珍しい事もあるものね(笑)」

そう言って笑いながら、銀色の缶を取り出す。


「なんか、お姉ちゃんの顔、見たくなっちゃって・・・」


「あ、これ・・・・」

思い出したように真那が呟く。


「たまにね、1人で飲んでるのよ」


「お姉ちゃん、本当にこの紅茶好きだったもんね~」


久しぶりに聞く、妹の元気な声に


そっと微笑みながら紅茶の葉をポットに入れ、お湯を注ぐ。


「お父さん達、心配してたよ?“真尋は全然連絡くれないんだから”って。
たまにはデ-トがてら、圭介さんと一緒に来れば?」


「だって連絡することなんて何もないもの。」


愛用のマグカップと来客用のティ-カップに紅茶を注ぐと

ア-ルグレイの香りがそっと広がった。

「またそういうこと言う~。今の言葉聴いたらお父さん泣いちゃうよ?」


私と7歳離れている 妹の真那は

結婚する前から本当に可愛い妹だった。

小さい頃から何をするにもお姉ちゃん、お姉ちゃんと、私の後をくっついて回っていた。

5年前 夫である 圭介と結婚するまで

私達はずっと一緒だった。


彼女はある意味、私の欠けた一部なのだ。


「就職の方は?うまくいってるの?」

来春、大学卒業を控えている大学4年の真那にとって

今の時期は 一番大変な時だった。

「・・・・何件か回ってるんだけど・・・どれも今いちなんだよね・・・」


さっきまで歯切れの良かった口調が急に勢いを無くしていく。


「・・・なんかいろいろ考えちゃって・・・自分のやりたい事はなんなんだろうって・・・」


そんな妹を見つめながら私は言った。


「本当に大切なのは真那の気持ちよ。自分は何がしたいのか、何になりたいのか・・・。
今はいろいろと悩むかもしれないけど、話ならいつでも聴くから・・・だから1人で
悩まないで・・・・ね・・・・?」


「・・・・ありがと・・・・・。お姉ちゃんにそう言ってもらって何か元気出た・・・・」


私と妹は微笑みあうと


香りの良い、紅茶をゆっくりと味わった。


******

時計の針が9時を少し回った頃、夫が帰ってきた。


「お帰りなさい。遅かったのね。」


手早く夕食を準備しながら声を掛ける。


「先週の福岡出張での報告書を出さなきゃいけなくてね・・・」


疲れているのかス-ツ姿もそのままに


上着だけを脱ぐと ネクタイを緩め食卓の椅子に腰を下ろす。


「今日は肉じゃがを作ってみたの。好きだったでしょ?」


「ああ、そうだな・・・」


形だけの夫婦とはこういうことを言うのだろうか


彼に向けて発した言葉はいつもそのまま中に浮き、


行き場もないままに 私と彼の間を彷徨っている。


「・・・どうしたんだ・・これ・・・・?」


そう言って夫が見つめる視線の先には


小さなクマの置物があった。



ひとつのハ-トを2人で抱えあうようにして


肩を並べて座っている。



「ああ・・・・真那がくれたの。」


緑茶の葉を急須に入れながらそっと呟く。


「来たのか?真那ちゃん。」


「ええ、私の顔が見たくなったんですって。珍しいこともあるもんよね(笑)」


急須をゆっくりと回しながら


テ-ブルの上に置かれた色違いの湯飲みにゆっくりとお茶を注いだ。


今日1日の出来事を告げる ニュ-ス番組の声だけが


静かな部屋をそっと 包んでいた


******

お風呂から上がり

いつものように机の上にノ-トパソコンを広げる。

メ-ルチェックをしてから メ-ルを立ち上げ


メ-ルを打ち始める。


「酒井さんへ

先週は本当にありがとうございました。
酒井さんと飲むお酒、本当に美味しかったです(笑)
酒井さんは今日は何のお仕事だったんですか?
私は特に何もない普通の1日でした。
主婦って大変だけど、それと同時にすごく退屈です(笑)
ってこんな事言ったら怒られますよね・・・(笑)
お仕事お忙しいと思いますが、くれぐれも体調には気をつけて。
またメ-ルします。 真尋」

ゆっくりと送信ボタンを押し、


メ-ルが送信されたことを確認すると


机の上に広げていたノ-トパソコンをそっと閉じた。


寝室に戻り、夫が眠る隣で 私は書けなかった一文をそっと思い出していた。



「なぜだか 最近の私の心は 彷徨ってばかりです」


それは今の私の正直な気持ちだった。


ただ何も言わず


自分の全てを


ありのままの私を


受け止めてくれる人が


欲しかった




そしてそれは


3週間前に出逢った



彼に他ならなかった





けれど



この想いを



伝える勇気を



今の私は持ち合わせてはいなかった



そして 彼の優しい微笑みと


彼の柔らかで透明な 声を



思い出しながら



そっと眠りについた・・・・。





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by yuna-sos-0305 | 2005-01-31 22:02