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by yuna-sos-0305
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第21話 


静かな部屋に時計が時を刻む音だけが 響いていた。


村上はしばらくの間 じっと酒井から手渡された楽譜を見つめていたが


やがてそっと微笑みを浮かべ、言った。


「いいと思うぜ?風邪で寝込んでたにしては上出来じゃねぇの?」



そう言って 向かい側に座っていた 酒井に楽譜を手渡した。



「良かったぁ~、このところずっと煮詰まってたから、これで「駄目だ」って言われたら
どうしようかって悩んでたんですよ(笑)」


村上から、書き下ろした新曲にOKを出してもらった安堵感からか


酒井は心からの笑顔を浮かべた。



楽譜を鞄にしまい、部屋を出ようとする酒井に村上は声を掛けた。


「酒井・・・・」


「なんですか?」


「お前、ちょっと時間あるか・・・?」


*******

1時間後、酒井と村上は学生時代によく来ていた

なじみのラ-メン屋を訪れていた。


「うっわ~、ここ来るの何年かぶりですよ、懐かしいな~。」

そう言って 店内を見回す酒井に


「たまにさ、来んだよ。曲作りに煮詰まった時とか、お前らと飲んで一杯食いてぇなって
時にさ。」


そう言って テ-ブルの上に置いたライタ-を弄びながら


呟いた。



「・・・・なんかあったんですか・・・・?」



「え・・・・?」



「いや・・・リ-ダ-から誘ってくるなんて珍しいから・・何かあったのかなって思って・・・」


そう言って 酒井は目の前に座っている村上を見つめた。


「・・・・・・・・・・いや・・・その・・・・まぁ・・・・あれだよ・・・なんっつ-の、お前とこう、久しぶりに
ゆっくり話したかった訳よ」


今、自分が本当に聴きたいことを



村上は言えずにいた。




「・・・・・・・・・・変なリ-ダ-ですね(笑)」


そう言って 酒井が微笑みを浮かべた次の瞬間



「はいっ!ネギみそラ-メンと、醤油ラ-メンね。」


暖かい 湯気を立てながら 具一杯に盛られたラ-メンが


酒井と村上の前にゆっくりと置かれた。


「あれ?おばちゃん、餃子ないよ。」


そう言って村上が なじみのおかみを見つめる。


「えっ?あんた達、餃子頼んだの?」


そう言って 目を丸くする おかみに


「頼んだよ~。いつものにんにくたっぷりのやつ。」



そう村上が言った時、



「馬鹿野郎!お前、ちゃんとオ-ダ-見とけ!ここにほら、残ってるぞ。餃子が。」


そう言って 店の主人が声を荒げた。



「あら、ごめんごめん。あたしったらそんなところに忘れてたのね」



何一つ 変わっていない おかみと主人のやり取りに


そっと微笑みを浮かべると



村上と酒井は出来たてのラ-メンを食べ始めた。



*******

「いや~、食った、食った・・・」


「本当腹一杯です・・・」


店を出て スタジオへの道を



ゆっくりと歩いていく。




歩幅を合わせるように 歩いていると


村上は 突然酒井に振り返り 言った。


「実は、なんだかんだ言ってお前に話したいことあったんだけど、今度にするわ・・・」


そう髪をかきあげながら 言った。


「それで、「龍奄」に誘ったんですね・・(笑)」


酒井が納得したように 呟くと


「まぁ・・な・・・・。じゃ、そういうことで、またな」


そう言って ゆっくりとスタジオとは逆の方向へと歩いていった。


*******

スタジオに戻ると


偶然、部屋の中にいた北山とばったりと会った。


「・・・・北山・・・・」


「あ・・・雄二・・来てたんだね、鞄があったからさ・・・」


「ああ・・・村上に飯、誘われてな・・・一緒に龍奄に食いに行ってたんだ」


「そっか・・・・。あ・・そうだ、例のCMが出来上がったらしくて、プロモ-ション用のビデオ
送ってくれたんだよ。見てくれる?」


そう言って 北山は 手早くリモコンを操作した。



大手化粧品会社のロゴが映り、



リズミカルな音楽と共にCMがスタ-トする。



映像と音のコラボレ-ションは



斬新なほど 耳に 目に そして何より 心に訴えかけてくる。


「・・・・すごいな・・・・・・」


溢れる色と流れ出す音楽


自分達が こつこつと地道に作り上げてきたものが


こうやって華やかに 光を浴びることは酒井や北山にとって



何よりの賞賛だった。



まるで自分自身が褒められているような


そんな感覚に陥ってしまう



「まぁ・・こんなとこかな」

映像を見終わった後、酒井を見つめながら北山が言った。


「すごいいいよ。これ、いけるんじゃないのか?」


CMの斬新さに すっかり 心を奪われてしまった様子の酒井に


そっと微笑みを浮かべながら 北山が切り出した。


「そういえばリ-ダ-から何か言われなかった?」


「何か?」


「うん・・・・・」



「いや・・・特に何も言われなかったけど・・・どうした?何か・・あるのか・・・?」



不思議そうに 自分を見つめる酒井を


じっと見つめ返し


ゆっくりと息を吸いながら


北山は話し始めた。


「・・・心配してるんだ・・・てつ・・・雄二のこと・・・・」


「・・・・俺のこと・・・・・?・・・・・」


酒井の問いに 無言で小さく頷きながら



続きの言葉を 言った。


「・・・・“もしかして酒井は結婚してる女を好きになったんじゃないのか?“って・・・“俺は
酒井が苦しむ姿を見たくはない。あいつはとても純粋なやつだから、あいつが傷ついて
いくのを見るのは耐えられない”って・・・・」



「・・・・・・・・・」



「恋愛にまで口出ししようとは思わないよ?それはもちろん、てつも同じ事だと思う。
仲間とは言え、恋愛や結婚はプライベ-トな事だし、それ以上に個人の問題だからさ・・・・
でも仲間だから放っておけないっていう・・・そういう気持ち・・・雄二なら分かってくれるって・・・・俺はそう思うからさ・・・・」



「・・・・・・・・」



「答えてほしいんだ・・・雄二が好きになった人は・・・他に相手がいるの・・・・・?結婚・・・・
してるの・・・・・・?」



俺は 何も答えられなかった。



ただ 彼女と気持ちが通じ合えたということだけで



そのことだけで いっぱいだった。




人は全てを手には入れられない。




そう感じた時、


この 想いには  鍵をかけていた方が



良かったのかと 思い悩んだ。




大切な仲間を悲しませるぐらいなら



いっそ この想いを封じ込めてしまえば・・・・




けれど そんな事 できるハズもなかった。




気持ちが通じ合ったあの瞬間から



君なしの 人生なんて



俺には 考えられなかった。




「・・・・・・雄二・・・・・・・・」




気がつけば


涙が溢れていた



「ごめん・・・・・。ごめん・・・・みんなが心配してくれてるのは痛いほど分かってるんだ

でも・・・・・・俺には彼女が必要なんだ・・・ずっと彼女の傍に居たいんだ・・・

こんな気持ち・・・生まれて初めてで・・・自分でもどうすればいいか

戸惑ってる・・・・・・・・・でもやっぱり・・・・俺は何て言われようと・・・・彼女を・・・・

手放せないんだ・・・・・・・・・・・・」




出逢わなければ良かったと





嘆くよりも




出逢えた運命を 共に喜び合い、分かち合いたい。



もし その後ろに 



出逢えたことへの  苦しみや 悲しみが



待ち受けるなら



俺は 喜んで  その苦しみと 悲しみを




この身に受け止めよう。




たった1つの真実



【あなたに 出逢えたこと】



これが 俺の全て。そして俺たちの全て。




 



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by yuna-sos-0305 | 2005-02-03 20:48